夢日記19

「わたしを壊せ」/というぼろぼろの犬の声が/山から地上へと/わたしへと/一直線に吹き下りてくるとき/幻の山道をのぼっていく/愛のような/みずみずしい敵意の切っ先に出会うために
     (小池昌代「敵意」より)

 辺りは夜で、細い石畳の道にはぽつぽつと屋台が出ていて、わた飴やたこ焼きを売っている。お祭りの雰囲気。人はまばらにしかしない。あまり親しいとは言えない女の子と僕は一緒に歩いている。互いにあまり近寄ることなく、それぞれ屋台を横目で見たり石畳の感触を楽しんで歩く。
 橋のような場所で僕は立ち止まり、欄干から身を乗り出すと、五メートルほど下のフロアは大きな会議室のようになっていて、大勢の年輩の人々が会話をしているのが見える。そこはとても静かで、灯りもほとんどない。
 僕は彼女と一緒に階段を降りていって、小声で話す彼らの脇を通り書庫へ向かう。そこには誰もいない。奥の方までいくとざわめきも聞こえなくなる。本棚に並んでいるのはどれもS社から出版された詩集で、かなり古いもののようだ。どの本もとても厚くて、取り出してみるとほとんど立方体に近いようなものもある。
 詩集が好きらしい彼女は色々な本を手に取り眺めている。棚と棚に挟まれた通路はとても狭いので、立ち止まっている彼女の後ろを通ろうとすると体が触れそうになる。しゃがみこんで本を読んでいるその後ろ姿に、少しどきどきしながら僕は手を伸ばす。ほんの少し指で押しただけだったのに、彼女は飛び上がってのけぞり短い悲鳴をあげる。振り返った目には驚きが溢れていたが、ひどく嫌悪されたわけではないようなのでほっとする。そして同時に、僕は彼女のことがとても好きなのだと自覚する。