クロラ

「妻へ(3)」

「妻へ(3)」 狂気の沙汰ほど面白い*1 --- 食べること。 それがあなたの愛ならば、 眠ること。 それを私の美徳としよう。 私は深くそう思う。 祈ること。 それがあなたの退屈ならば、 飾ること。 それを私の憎しみとしよう。 私は努力した。 そう思いたか…

夢日記20

鳥の黄色い/嘴のように固い/口笛が/ひろげた傘の中で反響して/とても重苦しくて/朝の気分を/タイヤのように踏みにじっていく//丘の頂上に水牛があらわれて/大きなあくびをしている/ぼくはあふれかえるくしゃみを/噛み殺して歌を歌った (西岡健太…

「妻へ(2)」

死ねば助かるのに・・*1 ── 妻の体が私になって、私の体が妻の体になれば良い。そうなふうに思ったことは幾度もある。 妻の肢体を出刃包丁で切り刻み、茹でたり焼いたりするたびに、そんな目に合うのが私であればどれだけ良いだろうと。 * しかし臆病な私に…

夢日記19

「わたしを壊せ」/というぼろぼろの犬の声が/山から地上へと/わたしへと/一直線に吹き下りてくるとき/幻の山道をのぼっていく/愛のような/みずみずしい敵意の切っ先に出会うために (小池昌代「敵意」より) 辺りは夜で、細い石畳の道にはぽつぽつと…

詩「妻へ(1)」

焼かれながらも人は、そこに希望があればついてくる*1 ── 私の妻はとても醜い。 どう醜いのか、それを上手く話すことはできないのだが、醜いと思わずにはいられない。そのことが私には辛い。 だから妻の醜さを、私は誰かに、下手なりに話さなくてはいけない…

詩「春鬼 (2)」

春鬼 (2) * 女は覚悟が良くて/私などより見事に散らかる。/心も足も曝して見せる。/彼女を散らかしたのは/私であった。/その私が目を逸らし/女が真直ぐ/見詰めるものがある。*1 春がきた。 重たい赤ん坊を 背負 ( しょ ) うように 白い薄手のシャ…

詩「立ち枯れ、後」

立ち枯れ、後 それが、やさしいはずはない 水を浴びせられる植木のように つんと上を向いて待っている少女 断ち切られる黒い髪は むなしく踊るように落ちる 床とは、 ただあたりまえの木目 その上に生卵を置く 殻を割って中身を置いた 黄身と白身がとろんと…

夢日記17

魚たちも 泳ぎ手たちも 船も/水のかたちを変える。/水はやさしくて 動かない/触れてくるもののためにしか。 (ポール・エリュアール「魚」より、安藤元雄訳) とても長かった旅行からしばらくぶりに戻り、実家に立ち寄る。家には誰もいないようで、お腹が…

詩「幽鬼」

幽鬼 ユウキ―― 彼女はつつましく ゆがんでいく カレンダーの確かな進みを 阻害するだろう (――今日が何曜日か分からない…) 性急にふしだらで 明瞭なコトバのように アップテンポで 二人の髪をすりつぶす愛 (――羅生門の老婆のように…) 彼女との日々は 公共…

夢日記22

ぼくは友だちに言う/すばらしいことはみんな夢の中で起った/ぼくらはそれを思い出せないで暮らしている/一篇の詩/ぼくらの苦しみでは創り出せない詩/それを思い出そうとしてぼくは歩いている/ぼくの沈黙を許したまえ と (辻征夫「沈黙」より) 蕎麦屋…

詩「春鬼」

春鬼 (テーマ提出:泉由良) ※1 願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ ----- ※2 そのとき 人類は虫になってしまったそうだ ひとりの人の脳の中で (もはやそのように思うのは心ではなく脳であろう) ----- いつかの四月のお花見の頃 例えば…

夢日記14

ぼくの夢は普通戯画的な秩序に従っているとぼくは言った。夢はぼくを告発する。ぼくの性質にあって修正不能なものをぼくに教えてくれる。ぼくの改めようとしない体質的欠陥を強調してくる。それはぼくもうすうす感じていたものだ。夢は、行動や寓話や談話の…