鳥の黄色い/嘴のように固い/口笛が/ひろげた傘の中で反響して/とても重苦しくて/朝の気分を/タイヤのように踏みにじっていく//丘の頂上に水牛があらわれて/大きなあくびをしている/ぼくはあふれかえるくしゃみを/噛み殺して歌を歌った
(西岡健太郎「朝の気分」より)
雨が降り続けている。僕は三階建てのレストランの二階にいて、窓の外を眺めながら夕食をとっている。そこは昔横浜で祖父と祖母がやっていた店だ。
辺りは薄暗く、テーブルを囲んでいるのは、顔が灰色の影になった家族たち。向かいの雑居ビルには微かな人の気配があり、こちらを覗いているような気がする。
僕たちの後ろのテーブルでは、別の家族たちがやはり静かに食卓を囲んでいる。雨の影響で、段々と建物が浸水してきている。すでに一階は水で埋められ、奥手の階段を昇ってまもなく水は二階までやってこようとしている。
床を流れる水の音がさらさらと聞こえた瞬間、家族たちはすみやかに立ち上がり三階を目指す。食事は切り止め、僕もその後を追う。そのすぐ後ろをもう一組の家族が追いかけてくる。
赤いゴムの滑り止めがついた階段を早足で駆け上がり、鉄製の重いドアを勢いよく閉める。僕たち家族はなんとか間に合って後続の家族たちを閉め出すことができる。
しかしその鉄のドアは、下三十センチほどが薄い曇りガラスで出来ていて、その隙間から上目遣いでこちらを覗いている恨めしげな目が見える。僕は恐怖を感じることがない。自分の家族も置き去りに、さらに階段を昇り屋上を目指す。