泉由良

詩「目玉」

目玉 怒れる男は赤い目をしている 赤い目は壱を意味するため さいころを振れば勝ちがくる そういう仕掛けだった 眠れる女は青い血をしている 青タンが三枚揃えば再び勝ちがやってくる そのため男は女の血を塗りたくっていかさまをした 女なら分かってくれる…

 詩「凪」

凪 妻は蛸だった 何処まで入っていっても蛸だったのでつめたく 人肌とは相容れることのない柔らかさをして いつもその正体が蛸であることを 忘れさせまいとしていた 時化がくると妻は蒲団の下で騒ぐ 身がさんざめくため仕方のないことで免じて欲しいと まな…

Quiginu#7正午

美術館 或いは、路上での出来事 それはとても透明だから最初はそうとは気が付かないけれど 本当はとても分厚くて幾度も高熱によって捻まがったもので あの男は何も知らずにそれをウィンドウに取り付けているが 本当はその硝子を嵌め込んだら最後その建物には…

Quiginu#6聞き違い

青いものが見えるの/彼女は云った/遠くを見ながら 神経が脆弱であることは/人間として劣っていますか/もっとあからさまに問うと/それは罪ですか 目の前に広がる景色の向こうに/青いものが見えるの ヴァイオリンの音色が聞こえる all the lonely people…

詩「噤む朱」

噤む朱 (「白い花」/作 セシルへの交換詩です) その朱は苦かった その朱いつぼみは苦かった 食べ物じゃないから にがいと云いながら食むわたしに あの子は云った 例年通り 花の季節の次には光の宴の皐月 そして雨期が訪れ大地は湿り 私は時を遡る 記憶の波…

Quiginu#5電話

電話が鳴る度に少しずつずれる。 夜は長いのに 窓は黒いのに 誰もいないのに 窓ガラスの向こう薄っぺらい チェシャーキャットがわらってる ──お客様にお知らせでございます。現在お客様のご使用の携帯電話から放射性物質が検出されました。ZOLLO700系をお使…

Quiginu#4「 花の宴」

掻き乱して 抉り出して 睨み付けて 火を点けて いいえ、嘘なのよ、灯が欲しかっただけ。 鮮やかだった夕映えももう、 青い影を引き擦り落として、夜空が躰に溜まるから。 ほぉらまたひとつ傷付いた。 ほぉらまたひとり逃げてった。 流れゆく、ものはみな、失…

詩「ギャンブル」

ギャンブル(テーマ提供:クロラ) 東あれ だからそちらが東となった 赤であれ そして賽子の目は壱が出た そうして勝ち上がってきたのさ、と 彼は乾いた笑みで見下す この勝負に負けていたら おまえはいなかったのさと云う 笑い男、の飼っているサカナ、に水…

Quiginu#3「元素シルエットロマン」

影ばかり動いている実体を持たない存在と 存在を持たない実体の差を述べなさい それは何色をしていますか? 何色を、していますか? 微睡むタナトスニヒリズム けれどもリチウムストロンチウム 私を生かすのはナトリウム どうぞ電解して下さい

詩「保護膜の部屋」

保護膜の部屋 せんせい、わたしの鉢植え、びょうきなんです 水をやっても幾度飲ませても 吐きこぼしてしまうのです 少女は自分の髪を切った 落ち続ける黒髪は艶やかで 床の木目模様を更に鮮やかに、する この部屋には水をやらなければなりません せんせい、…

Quiginu#2「銀河占有」

ミルキーウェイ / 摩耗する / ほそく削ぎ落としてゆく / 始まり / 撃ち落とす宵の明星 / 流れ星の軌道を計算 / すぐに示唆 / 或は監査 / トゥ イット トゥ イット ソー ゴナヘッド!/ 歩き出す椅子 / 挙動不審な映写機 / 繊細に触れる仙人掌 / そして始まる…

Quiginu#001三日月

無自覚な理論 / 不正確な夢 / 痛む古傷 / 微笑む三日月 深爪しても/ 三日月 / チェシャ猫の笑い / その形は三日月

詩「曇りの部屋」

曇りの部屋 やさしくして ねえ、やさしくしてください 切ってください わたしの髪を切ってください あなたの髪を切らせてください 茹で卵を作って、わたしに運んでくれますか 灰色の雲はいつからこの部屋のうえに 藍色の隘路にまつわるアイロニィは ねえ、と…

詩「霊花宴」

霊花宴 花見客の一群がよい心地になって唄を歌っている そこから遠く外れて離れ 川べりの道を永く永く歩いた 水が空を映す 春の空を映す やわらかな薄紅色の花弁が流れゆく 溺れもせずに 溺れもせずに何処までも 流れゆく 川べりの道は春の重箱 桜はまるで干…

小説「サカナのはなし」

「──サカナのはなしをしてよ」 貴女がそう、云ったから。 「サカナのはなし」泉由良(白昼社文庫) 2007年8月上梓。短篇小説5本+詩3本。A6版、インクジェットプリント。

連作短篇集「vodka、その周辺」

盃をあげよ、グラースよ、硝子をして 注がれるヴォトカを受け止めよ その透明なる熱い液体に、夜を閉じ込めよ そして飲み干せ 一気に飲み干せ 「vodka、その周辺」泉由良 著(白昼社文庫) 「ゆらさんに畏れをいだきました。もう、憧れとかではなくて、本当…

詩集「夜空に釦」

──誰かが親切にも四次元立体羅針盤をくれた 「夜空に釦」泉由良(白昼社文庫) 2007年4月にホチキス綴じで「白昼社文庫no.01」として発行。 2009年中村ビル大作戦の際に限定再発行。残少。A6版、横書き。500円。 収録詩 「猫」「光」「降ってくる、色」「美…

「夏の前」

「夏の前、子どもの紹介」 泉由良・著 1999年執筆/2004年新風舎文庫より上梓夏の前、子どもの集会 (新風舎文庫)作者: 泉由良出版社/メーカー: 新風舎発売日: 2004/09メディア: 文庫 クリック: 45回この商品を含むブログ (6件) を見る新風舎倒産後もamazonに…