詩交遊泳

「妻へ(3)」

「妻へ(3)」 狂気の沙汰ほど面白い*1 --- 食べること。 それがあなたの愛ならば、 眠ること。 それを私の美徳としよう。 私は深くそう思う。 祈ること。 それがあなたの退屈ならば、 飾ること。 それを私の憎しみとしよう。 私は努力した。 そう思いたか…

詩「目玉」

目玉 怒れる男は赤い目をしている 赤い目は壱を意味するため さいころを振れば勝ちがくる そういう仕掛けだった 眠れる女は青い血をしている 青タンが三枚揃えば再び勝ちがやってくる そのため男は女の血を塗りたくっていかさまをした 女なら分かってくれる…

「妻へ(2)」

死ねば助かるのに・・*1 ── 妻の体が私になって、私の体が妻の体になれば良い。そうなふうに思ったことは幾度もある。 妻の肢体を出刃包丁で切り刻み、茹でたり焼いたりするたびに、そんな目に合うのが私であればどれだけ良いだろうと。 * しかし臆病な私に…

 詩「凪」

凪 妻は蛸だった 何処まで入っていっても蛸だったのでつめたく 人肌とは相容れることのない柔らかさをして いつもその正体が蛸であることを 忘れさせまいとしていた 時化がくると妻は蒲団の下で騒ぐ 身がさんざめくため仕方のないことで免じて欲しいと まな…

詩「妻へ(1)」

焼かれながらも人は、そこに希望があればついてくる*1 ── 私の妻はとても醜い。 どう醜いのか、それを上手く話すことはできないのだが、醜いと思わずにはいられない。そのことが私には辛い。 だから妻の醜さを、私は誰かに、下手なりに話さなくてはいけない…

詩「ギャンブル」

ギャンブル(テーマ提供:クロラ) 東あれ だからそちらが東となった 赤であれ そして賽子の目は壱が出た そうして勝ち上がってきたのさ、と 彼は乾いた笑みで見下す この勝負に負けていたら おまえはいなかったのさと云う 笑い男、の飼っているサカナ、に水…

詩「春鬼 (2)」

春鬼 (2) * 女は覚悟が良くて/私などより見事に散らかる。/心も足も曝して見せる。/彼女を散らかしたのは/私であった。/その私が目を逸らし/女が真直ぐ/見詰めるものがある。*1 春がきた。 重たい赤ん坊を 背負 ( しょ ) うように 白い薄手のシャ…

詩「保護膜の部屋」

保護膜の部屋 せんせい、わたしの鉢植え、びょうきなんです 水をやっても幾度飲ませても 吐きこぼしてしまうのです 少女は自分の髪を切った 落ち続ける黒髪は艶やかで 床の木目模様を更に鮮やかに、する この部屋には水をやらなければなりません せんせい、…

詩「立ち枯れ、後」

立ち枯れ、後 それが、やさしいはずはない 水を浴びせられる植木のように つんと上を向いて待っている少女 断ち切られる黒い髪は むなしく踊るように落ちる 床とは、 ただあたりまえの木目 その上に生卵を置く 殻を割って中身を置いた 黄身と白身がとろんと…

詩「曇りの部屋」

曇りの部屋 やさしくして ねえ、やさしくしてください 切ってください わたしの髪を切ってください あなたの髪を切らせてください 茹で卵を作って、わたしに運んでくれますか 灰色の雲はいつからこの部屋のうえに 藍色の隘路にまつわるアイロニィは ねえ、と…

詩「幽鬼」

幽鬼 ユウキ―― 彼女はつつましく ゆがんでいく カレンダーの確かな進みを 阻害するだろう (――今日が何曜日か分からない…) 性急にふしだらで 明瞭なコトバのように アップテンポで 二人の髪をすりつぶす愛 (――羅生門の老婆のように…) 彼女との日々は 公共…

詩「霊花宴」

霊花宴 花見客の一群がよい心地になって唄を歌っている そこから遠く外れて離れ 川べりの道を永く永く歩いた 水が空を映す 春の空を映す やわらかな薄紅色の花弁が流れゆく 溺れもせずに 溺れもせずに何処までも 流れゆく 川べりの道は春の重箱 桜はまるで干…

詩「春鬼」

春鬼 (テーマ提出:泉由良) ※1 願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ ----- ※2 そのとき 人類は虫になってしまったそうだ ひとりの人の脳の中で (もはやそのように思うのは心ではなく脳であろう) ----- いつかの四月のお花見の頃 例えば…